まこちゃの、考える映画ブログ

少し前の映画とか、最近の映画とかについて語るブログ

映画『死刑にいたる病』の榛村みたいな、人心掌握系のサイコパスが怖い映画3選(ネタバレ無し)

(C)2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

白石和彌監督が、櫛木理宇の原作小説を映画化した『死刑にいたる病』。
24人もの殺人を犯した榛村大和(はいむらやまと)から、たった1件の冤罪事件を証明する事を託された、大学生の筧井雅也(かけいまさや)が、次第に社会の闇に飲まれる衝撃作です。

本作で特徴的なのは、家庭や社会にコンプレックスを抱いた人間の、人心を掌握し意のままに操る榛村というキャラクターです。
榛村役の阿部サダヲが、感情を失ったような、爬虫類を思わせる不気味な榛村を演じており、同じ白石和彌監督作品の『彼女がその名を知らない鳥たち』で演じた、陣冶とは違う、恐ろしさがあります。

榛村のような、いわゆる「人心掌握系のサイコパス」映画はいくつかあり、日本映画独特の恐怖がそこにあると思うので、近年の話題作を3本ご紹介します。

『凶悪』(2013年)

(C)2013「凶悪」製作委員会

最初に紹介するのは、同じ白石和彌監督作品の『凶悪』。
面会室が物語の鍵になっていたり、死刑囚に振り回される主人公という構図が、『死刑にいたる病』と似ていますが、事件の被害者目線で物語が進む『死刑にいたる病』と対照的に、犯罪者目線で物語が進むのが『凶悪』の特徴です。

気に入らない人間を次々に「ぶっこむ(殺す)」ヤクザの須藤も怖いですが、本当に怖いのは、須藤の人心を掌握し、自分は手を汚さずに犯罪を進める「先生」こと木村です。

リリー・フランキーが演じる先生は、見た目は細身で一見紳士的に見えますが、人を殺す事に何の罪悪感も抱いていないサイコパスです。
特に牛場悟に、死ぬほど日本酒を飲ませる場面で見せる、内面に潜ませた異常性は鳥肌ものです。
この木村が、最後に「凶悪」と呼ぶ存在、それはここまで映画を楽しんでいた観客に向けられており、傍観者が当事者になる恐怖が凄まじい作品で、最後の最後に先生に心を掌握されたような感覚になります。

 

クリーピー 偽りの隣人』(2016年)

(C)2016「クリーピー」製作委員会

 

今や世界的な活躍を見せる黒沢清監督が、前川裕の小説「クリーピー」を映像化した本作。
本作に登場する西野は、一見すると気弱で腰が低いという印象で、人に警戒心を抱かせずに、心に入り込むあたりは『死刑にいたる病』の榛村に近いですね。

この作品が恐ろしいのは、いつの間にか西野のペースになっていて、主人公の高倉が、気付けば西野と一蓮托生の状態にされている事です。
黒沢清監督は『CURE』(1997)でも、異常者により、いつの間にか破壊された日常を描いており、高く評価されました。
黒沢清監督の演出力と、西野を演じる香川照之の演技力、この2つが合わさった異常な世界観は一見の価値ありです。

 

『愛なき森で叫べ』(2019)

(C)Netflix 愛なき森で叫べ

最後は、2019年にNetflixで配信された『愛なき森で叫べ』。
本作に登場する村田丈が、映画製作に打ち込む若者達の人心を掌握し、めちゃくちゃにしていきます。
注目なのは、村田丈が相手を洗脳する時の手口で、最初に相手の全てを否定し、恫喝し、相手が自信を失ったところで「俺だけはお前を認めている」と、急に相手に寄り添うというものです。
相手を認めて寄り添い、人心を掌握する手口は、榛村と一緒ですが、その前に恫喝して相手の思考を停止させるのが特徴です。

村田丈はどこか変なキャラクターで、数々のキラーワードを作中で連発しているので、そこも注目してください。

『凶悪』『クリーピー 偽りの隣人』『愛なき森で叫べ』の3本をご紹介しましたが、恐ろしいのがこの3本は実際の事件をモデルにしているという点です。

人心掌握系のサイコパス映画が、日本独自の恐怖を持っているのは、それだけ今の日本が、病的であるという事なのかもしれませんね。