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タイを舞台にした悪夢のようなホラー映画『女神の継承』。ラストシーンから受け取れる、あまりにも救いが無さ過ぎる作品のテーマとは?(ネタバレあり)

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タイの東北部に住む、祈祷師の一族に密着取材した、ある撮影隊が遭遇する、あまりにも理不尽な恐怖を描いたホラー映画『女神の継承』
ドキュメンタリー風の作風(モキュメンタリー)となっている本作は、撮影隊の残した映像を通して、女神を信仰する、ある一族に降りかかる恐怖を、次々に目の当たりにする事になります。

クライマックスは、近年のホラー映画でも稀にみる「地獄絵図」が広がる本作
哭声/コクソン』(2016)のナ・ホンジンが原案とプロデュースを務めた本作の魅力と、ラストシーンから受け取る事が出来る、救いようの無い本作のテーマについても考察してみます。

『女神の継承』あらすじ
2018年、祈祷師の取材を続けていた取材班は、タイの東北部で、代々女神を信仰している、ある一族の取材を開始します。
現在、女神を体内に宿らせ継承している祈祷師のニム。
二ムには、ノイという姉がいますが、ノイは女神の継承を拒否した過去があり、二ムとノイの間には確執があります。
取材班は、ノイの娘で二ムの姪にあたるミンと出会います。
ミンは、若くて綺麗な女性ですが、兄と父親を失った直後から、情緒が不安定となり、奇妙な言動を見せるようになります。
更に、ミンは幽霊が見えるようになっており、二ムは「女神が次の継承者に、ミンを選んだ」と考えます。
取材班は、一族の「女神継承」の瞬間を撮影しようと、ミンに密着しますが、ミンの様子がどんどんおかしくなっていき…

女神の力を信じるニムと、女神を嫌悪しているノイとミン

映画『女神の継承』は、前述したようにタイの祈祷師に密着した、取材班が残した映像という設定の、モキュメンタリーです

取材班が最初に密着する二ムは、一族が代々受け継いできた、女神の媒体となっている祈祷師で、体内に宿らせた女神の力で、人々を救っています。
と言っても、超能力がある訳でなく、出来るのは「何かに憑依された人」を救う為の儀式を行ったり、アドバイスをしたりという程度です。

一族が代々受け継いできた女神の、次の後継者とされたのがミンです

ミンは若い女性で、女神の存在など最初から信じていません。と言うか、祈祷師を完全に馬鹿にしています
ミンの母親ノイも、女神も祈祷師も毛嫌いしており、二ムとも仲が良くありません。

しかし、ミンに起きている異変の数々から、女神が次の後継者に選んだのは、どう考えてもミン。
女神に選ばれてしまった以上、ミンの意思と関係なく、一族に代々伝わる「女神の継承」を行わないといけないのか?

ここの確執が中心となり、物語が展開されると思ったら…。

ここから、ネタバレ全開になるんで、自己責任で読んでいただけると嬉しいです。

 

 

 

 

(ネタバレ)

ミンに憑依したの、女神じゃないってよ!

本作の中盤から、ミンは何かに憑依されたように、奇妙な行動を取るようになります。
ミンがおかしくなってしまった為、耐えかねたノイが「降参よ、継承の儀式をやってちょうだい」と言いますが、ここで衝撃の事実が判明します

当初は女神だと思っていたミンに憑依した「何か」ですが、二ムから「ミンに憑依したのは女神じゃない」と衝撃の発言が…。
じゃあ、お前は誰だよ!という話ですが、ここから、ニムによる真相究明が始まります。

祈祷師と悪霊の「エクソシスト」的な戦い

ニムがミンに憑依した何かの正体を探っている間、ミンの変化に耐えられなくなっていたノイは、自分で祈祷師を探して、除霊をお願いします
ですが、ニムからすると、この祈祷師は偽物で、インチキな儀式を行っていました。

そして、このインチキ儀式以降、ミンは明らかに普通ではなくなります

ここからニムは、ミンの中の悪霊と対峙するようになるのですが、前述したように超能力がある訳でなく、女神への祈りを捧げるしか出来ない為、基本的に無力。
ニムも、自分の無力さを痛感します
そして、ミンが突然行方不明になってから、本作は急展開を見せます

最強の祈祷師サンティ様の登場と、本作最大の恐怖「暗視カメラ」の映像

ニムの祈祷により、ミンの行方が分かりますが、それは何の関係も無さそうな廃工場でした。
ミンの体内から悪霊を追い出す為、ニムが頼ったのは、本物の霊媒師サンティ。

サンティは、大勢の弟子を従えている凄い人で、ミンを少し見ただけで、体内の悪霊の正体を暴きます
ミンが悪霊に憑依されたのは、ミンの父親に原因がありました。

ヤサンティア家の末裔であるミンの父親ですが、過去にヤサンティア家は多くの人間を無差別に殺した過去があり、犠牲になった人達の強い呪いを受けていました
その呪いが、ミンに向けられ、ミンの中には人間、動物、さまざまな悪霊の集合体が憑依しています
悪霊の憑依を決定的にしたのが、例のインチキ儀式だった訳ですね。

この悪霊を払う為、ニムとサンティは儀式を行う事になりますが、7日間の準備が必要になります。

ノイは、儀式が始まるまで、ミンを自分の家の部屋に閉じ込めます。
ですが、夜中にミンが抜け出しているようで、その実態を掴む為に、取材班は暗視カメラを家の中に設置するんですが、この映像の数々が本当に怖い
「ほんとにあった! 呪いのビデオ」シリーズのような恐怖と言えば、お分かりいただけただろうか?

正直、ここまでの展開は、退屈に感じる時もあったのですが、この暗視カメラの映像から、本作の恐怖はノンストップで加速します

クライマックスの地獄絵図と、ラストのニムの独白の意味を考察

本作のクライマックスで、行方不明になったミンが発見された廃工場で、サンティがお払いの儀式を行います。
儀式は行われますが、肝心のニムが、儀式の直前に突然亡くなります

なので、サンティと弟子で儀式を進めていきますが、ハッキリ言ってミンに憑依した悪霊には無力で、何故かサンティの弟子も次々に悪霊に憑依され、ミンに従う犬みたいになります。
さらに、サンティも殺されてしまい、このタイミングで、ノイが「女神が憑依した」とか言い出し、ほとんど収拾のつかない地獄絵図が展開されます。
ここ最近のホラー映画で、最大の地獄絵図ではないでしょうか?

最後は、取材班が全員襲われ死亡し、廃工場の片隅に置かれた「ある物」を映し、映画は終了します。

ですが、エンドロール前に、ニムの最後のインタビューが流れ「最初から、女神の存在を疑っていた。自分の中に女神がいるのか分からない」と語ります。

つまり、ニムの一族が代々伝承してきた、人々を救う女神は、最初から存在しなかった可能性があります。
または、女神はいたけど、信仰心を持たないノイとミンを、最初から救う気は無く、文字通り「神に見放された」という事も考えられます。

ですが、神や霊を信じないミンにも、呪いの力だけは効果があり、最終的に地獄絵図が展開されます。

人を救う神は存在しない、または信じないと助けてくれないが、人の怨念から生まれた呪いは、信じようが何だろうが、確実に襲ってくる

『女神の継承』という映画は人間の持つ、嫌な、本当に嫌な部分をテーマにした、恐ろしい作品と言えるでしょう。

怖いけど、完成度がやたら高いし、ミン役のナリルヤ・グルモンコルペチさんが、本当にお綺麗なんで、そういう意味で、ホラー好きや「ほんとにあった! 呪いのビデオ」の長編シリーズが好きな方にはおススメしたい、なかなかの傑作です。