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ジョーダン・ピールの新作映画『NOPE/ノープ』って結局どんな映画だったのか?(ネタバレあり)

 

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ゲット・アウト』や『アス』などの作品で、高い評価を得ているジョーダン・ピール監督。
社会的なメッセージをホラー映画に取り入れ、頭打ちだったホラー映画を、間違いなく一段階上に持って行った監督だと思ってます。

その、ジョーダン・ピール監督の新作『NOPE/ノープ』。
映画の予告編を見ても、空に何か丸いのが浮いているぐらいしか分からない、謎しかない内容でした。

では、実際『NOPE/ノープ』はどんな内容だったのでしょうか?
ジョーダン・ピール監督のインタビューとかから、自分なりに考察してみます。

 

『NOPE/ノープ』あらすじ
田舎町で広大な牧場を営むヘイウッド家。
この牧場では、映画で使われる馬をキャスティングしており、非常に重宝されています。
次の牧場の跡継ぎになる予定のOJでしたが、空から飛来した異物により、父親が死亡する場面を目撃します。

3年後、父親の跡を継いだOJですが、不愛想な性格から、なかなか仕事に繋がりません。
OJは、カウボーイのテーマパークを経営している元子役のリッキーに、馬を何頭か売却していました。
この状況に、OJの妹エメラルドは呆れ気味ですが、OJも牧場に関わらず、エンタメ業界へ自分を売り込む事に必死のエメラルドに呆れていました。
OJの不愛想さから、1つ仕事を失ったOJとエメラルドは、牧場に戻ります。
その夜、不気味な飛行物体が突如牧場の上空に現れ…。

 

血まみれのチンパンジーから始まる謎だらけの映画

『NOPE/ノープ』は、映画の予告を見ても、その全容が全く掴めず、おそらく予告だけだと「ホラーなのか?SFなのか?」と、ジャンルを特定する事すら難しい作品です。

ただ「上空に何か出現するらしい」という情報だけはあったので「おそらくSF映画」と思って観に行ったのですが、いざ映画が始まると、アメリカのシチュエーション・コメディみたいな台詞が聞こえて来て、その後に登場するのは、血まみれのチンパンジー

「何じゃこりゃ!」

全く先が読めない始まり方をした本作は、開始数分で主人公であるOJの父親が、空から降り注いだ「何か」に刺さって死亡するなど、不思議な展開が続きます。

「一体何が起きているのか、予想も出来ない…」

こいつは、予告編通りの映画だぜ。

 

 

 

 

以下、ネタバレとなります、まだ先を知りたくない方は、ご注意ください。

 

 

 

 

ネタバレ


「人食いUFOを撮影せよ!」

全く予測のつかない始まり方をした『NOPE/ノープ』。

ですが、中盤から展開されるのは、謎の人食いUFOとOJ達の独特の攻防戦です。
人食いUFOは、上空から地上にいる生物を吸い込み吸収するという、恐ろしい存在なのですが、目を見なければ大丈夫なようです。
ってか、こいつの目ってどこにあるのか?という疑問は残ります。

対するOJは、妹や電気屋さんと共に、この人食いUFOを退治する…じゃなく、目的は写真を撮影して高く売りつける事です。

なんて低い志…と思いますが、唐突に出現した、この謎のUFOをいきなり倒せる訳も無く、写真撮影を目的にするぐらいがリアリティーがあっていいかもしれません。

さらに伝説の撮影監督や、UFOを撮影に来た部外者も登場し、事態は混乱に陥ります。

ジャンルが不明の『NOPE/ノープ』ですが、あえて言えば「SFコメディ」でしょうか?
間違いなくジョーダン・ピール監督の新境地です!


「馬の名前やチンパンジーに込めた『ハリウッド批判』」

蓋を開ければ人食いUFOを撮影するしないの物語だった『NOPE/ノープ』。

じゃあ、オープニングのチンパンジーは何だったのか?

『NOPE/ノープ』に登場する重要人物の1人に、テーマパークの経営者リッキーがいます。
リッキーは、元々は子役で冒頭に登場したチンパンジーと、シチュエーション・コメディのドラマに出演していました。
ですが、突然凶暴になったチンパンジーが、出演者やスタッフを次々に撲殺していきます。

ここの場面、この映画で一番恐怖を感じます。

そして、唯一生き残ったリッキーですが、彼は今でも子役の時に出演した、チンパンジーとのドラマを自慢げに語ります。
チンパンジーが暴れた真相は、それとなく隠しながら。
そのリッキーのテーマパークに、牧場の経営難から自分の馬を売っているのがOJです。

OJの一家は、代々ハリウッド映画に馬を提供してきました。
ですが、年老いた馬はハリウッドでは必要なく、OJはかつてハリウッドで活躍した馬をリッキーに売っています。
映画の作中に度々出る馬やチンパンジーの名前は、かつてハリウッドで活躍しながらも、今は忘れ去られた動物たちです。

ここに、ジョーダン・ピール監督のメッセージが込められています。

近年ハリウッドでは、かつてのスターが容姿の老いから、出演依頼が無くなり切り捨てられてしまうという問題があり「女優は40歳で用済み」が常識とも言われていました。

まるで、作中に登場する馬やチンパンジー、もっと言えば子役の時はスターだったリッキーや、馬の需要があった時は稼いでいたOJの牧場もそうです。

しかし、用が無くなれば切り捨てるハリウッド…ジョーダン・ピール監督は「この業界は“ハリウッド・マシーン”とも呼ばれている」と語っており、この作品に登場する人物は、「ハリウッド・マシーン」に魂を吸われ、何も残らなかった人達なのです。

この「ハリウッド・マシーン」を形にしたのが、人食いUFOなのでしょう。
生物を吸収しまくった人食いUFOは、後半姿が変わりますが、栄華を極めたハリウッドを具現化したように感じます。
そして、最後はカウボーイの風船を取り込み、人食いUFOは消滅しますが、これは偽物を取り込んだせいで勢いを失っているハリウッドへの、ジョーダン・ピール監督なりの皮肉でしょうね。

『NOPE/ノープ』は「SFコメディ」と書きましたが、実は風刺や皮肉、メッセージがしっかりと入った作品で、実にジョーダン・ピール監督らしい映画と言えますね。