全6章に仕掛けられた罠を見抜けるか?『ストレンジ・ダーリン』(ネタバレあり)

連続殺人鬼の恐怖で震撼している街を舞台に、ある男女の物語を描いたスリラー『ストレンジ・ダーリン』。
本作は全6章で構成されていますが、巧みに時間軸を入れ替える事で「ある仕掛け」がされています。
予告でも、それを全面的に出しています。
あまり身構えていくと、人によっては簡単に見破れてしまうかもしれないのですが、見どころはそこだけでも無いので、今回は『ストレンジ・ダーリン』の感想をネタバレ全開でご紹介します。
「ネタバレ全開」って言ったからな?準備はいいかい?子猫ちゃん。
『ストレンジ・ダーリン』あらすじ
連続殺人鬼の事件が、連日報道されている、とある街。
ある男女がモーテルの中に入ろうとします。
男女は偶然知り合ったらしく、女性のレディは、男性のデーモンを「連続殺人鬼じゃないか?」と疑っています。
ですが、モーテル内のある出来事から、恐怖の展開が幕を開けます。
いきなり始まる第3章
連続殺人鬼の恐怖を描いた『ストレンジ・ダーリン』。
本作は全6章で構成されており、映画の冒頭でも「全6章である」事を予告しています。
ですが、始まるのは第3章から!
必死でデーモンから逃げる、レディの場面から始まります。
デーモンに車を破壊され、命がけで山の中に逃げていくレディ。
『ストレンジ・ダーリン』のオープニングも、スローモーションで逃げるレディから始まるので、レディが何者かから逃げている事が、序盤で強調されます。
そして、レディの片耳は無残にはぎ落されており、かなり酷い目にあった事が分かります。
レディに一体何があったのか?
デーモンは何者なのか?
以下、ネタバレを含みます
ここからネタバレ
殺人鬼はお前の方だったんかーい!
第3章から始まった『ストレンジ・ダーリン』。
デーモンに追われたレディは、第4章で、山に住む老夫婦の家に逃げ込みます。
そして、警察を呼ばれそうになった事から、レディは老夫婦の夫を刺殺します。
それも、かなり慣れた手つきで。
実は、レディが殺人鬼だった事が、ここで分かりますが「それじゃあ、デーモンって何者なの?」となる訳ですが…。
急展開を見せる第2章
個人的にですが『ストレンジ・ダーリン』で、一番の見どころなのは第2章じゃないかと思います。
殺人鬼としての本性を見せたレディが、デーモンに薬を盛って、動けなくしたうえで殺そうとします。
ですが、デーモンも自分の素性を隠しており、実は警察官でした。
とどめを刺される直前に、デーモンはレディに銃を発砲し、レディの耳を撃ち抜きます。
負傷したレディは、車を奪って逃走…ここから第3章に繋がるのです。
果たして結末は?タイトルの意味は?
『ストレンジ・ダーリン』は「3→5→1→4→2→6→エピローグ」の順で物語が進み、第2章で物語に隠された、本作の「仕掛け」は全て終了します。
なので第6章とエピローグは、警察官デーモンと、殺人鬼レディとの対決になるのですが、レディがとにかくしぶとい。
デーモンは殺され、応援に来た警察官も太刀打ちできません。
ここまでしぶといレディですが、最後は意外なほどあっさりとした「終わり」を迎えます。
ラストまで観て気になるのが『ストレンジ・ダーリン』というタイトル。
「ストレンジ」は「奇妙な」とか「不思議な」という意味があり、「ダーリン」は「最愛の人」という意味がるようです。(英語分かりませんが…)
最初はデーモンが殺人鬼だと思っていたので、『ストレンジ・ダーリン』とは、デーモンの事かと思いましたが、これは、レディに見える、悪魔の事を意味しているのではないでしょうか?
レディは、悪魔が見えた時だけ、人を殺します。
その悪魔も突発的に見えるのです。
最後、絶命していくレディを、時間をかけてゆっくりと見せるのですが、レディが何かから解放されたようにも見えます。
悪魔という「最愛の人」から解放されたレディ、これはハッピーエンドとも言えるのではないでしょうか?
(解釈を間違えてたらゴメンなさい)
本作は35ミリフィルムで撮影
また、本作は35ミリフィルムで撮影しており、冒頭でもそれを強調しています。
全体的に色が効果的に使われており、第1章の濃紺な青を基調とした映像も美しいですが、特に印象的なのはラストシーン。
前述したように、絶命していくレディの様子を、時間をかけて見せているのですが、徐々に白黒の映像になっていきます。
まるで、レディの終わりを印象付けるように…。
本作は、作中の仕掛けだけの作品ではなく、映像にもこだわりを見せており、低予算ながら上質なスリラーと呼べる作品に仕上がっています。
ただ、個人的にですが、もう一捻りあっても良かったかな?と思いましたが、あまりやりすぎると『ワイルドシングス』みたいになっちゃうんで、バランス的には、これでちょうど良かったかもしれないですね。
「X」シリーズ完結編?マキシーンに「輝かしい未来」は訪れたのか?『MaXXXine マキシーン』(ネタバレあり)

史上最高齢殺人鬼が登場する事で話題になったホラー映画『X エックス』。
殺人鬼の老婆、パールの若い頃を描いた、シリーズ2作目となる『Pearl パール』。
そして、シリーズ完結編となる『MaXXXine マキシーン』は、1作目の惨劇から生き残ったヒロイン、マキシーンのその後が描かれています。
1作目で「私には輝かしい未来しかない」と言い放った、マキシーンはどうなってしまうのか?
この作品、映画館での上映期間が短すぎ(1か月ぐらいしかなかった?)なので、ほとんどの映画館で、上映終了しています。
なので、ネタバレとか一切気にせずに感想を書いていきます。
『MaXXXine マキシーン』あらすじ
殺人老夫婦の魔の手から生き残り、ハリウッドへ向かったマキシーン。
それから数年後の1985年。
マキシーンはポルノ映画の世界で、大成功していました。
ですが、更なる成功を夢見るマキシーンは、新作ホラー映画『ピューリタンⅡ』のオーディションに参加します。
一方、ロサンゼルスでは、連続殺人鬼「ナイト・ストーカー」のニュースが、連日連夜騒ぎになっていた。
そして、マキシーンの周辺でも、不可解な事件が起きるようになり…。
マキシーンのハリウッドサクセスストーリー
独自路線を進むホラー「X」シリーズの完結編。
「X」シリーズは、2022年に公開された1作目『X エックス』が、ポルノ映画撮影に来た若者たちが、欲情した老婆パールに、次々と殺されていくという、スラッシャー映画のような内容でした。
続く2作目の『Pearl パール』は、タイトル通りパールの若い頃を描いた『X エックス』の前日譚。
ハリウッド黄金期を意識したような、豪華な作りが印象的でした。
1作目では、少し可哀そうな感じもしたパールでしたが、若い頃は狂気の塊のような存在だった事が分かります。
悪夢のようなラストシーンは、人によってはハッピーエンドに見えるようですね。
そして、シリーズ3作目となる完結編『MaXXXine マキシーン』。
1作目を生き抜いた、マキシーンのその後を描いていますが、いきなりポルノ映画で成功しており、高級車を乗り回す姿が描かれています。
突然成り上がった感があるマキシーンですが、作中で「バス停で客をとっていた」みたいなセリフもあるので、おそらく苦労があったかと思います。
『MaXXXine マキシーン』はどういう作品かと言うと、ハリウッドに辿り着いたマキシーンが、更なる高みを目指す、サクセスストーリーとなっています。
ホラーテイストが強かった過去2作と比べると、かなり作風が違って感じるかと思います。
ホラー映画が熱かった&レンタルビデオの時代
『MaXXXine マキシーン』の舞台となるのは1985年。
『MaXXXine マキシーン』の公式HPによると、ホラー映画が豊作だった時代のようです。
『死霊のえじき』、『エルム街の悪夢2』、『新・13日の金曜日』や『バタリアン』『霊幻道士』など、確かにホラー映画が熱かった時代です。
ポルノ映画で有名になったマキシーンが、ホラー映画の主演に抜擢されるという展開も、何か当時の流れを感じます。
さらに、作中に登場するのがレンタルビデオショップ。
今では、大手のレンタルビデオショップすら残っていませんが、1980年代は個人レベルのレンタルビデオショップが、あちこちにありました。
個人的にエモい(使い方あってるのか?)感覚に陥りましたが、『MaXXXine マキシーン』は、1980年代という時代をとにかく繁栄させた作風です。
細かいネタに関しては『MaXXXine マキシーン』の公式HPに詳しく書かれているので、それを併せてみても面白いかもしれません。
以下、ネタバレを含みます
ここからネタバレ
とにかく強い女、マキシーン
『MaXXXine マキシーン』は、前2作と比べると、サスペンスの要素が強くなっています。
ハリウッドで新作ホラー映画『ピューリタンⅡ』の主演に決まったマキシーン。
ですが、ロサンゼルスでは「ナイト・ストーカー」という、連続殺人鬼のニュースが連日報じられ、更にマキシーンの過去を知る、謎の私立探偵から脅しを受けます。
普通に考えると「ナイト・ストーカー」に襲われる、マキシーンの恐怖が描かれる!という感じになるかと思いますが…。
マキシーンが強い!強すぎる。
1作目でパールの頭を潰してから、さらに一皮むけたのか、自分に襲い掛かる脅威を次々に跳ね返し、自分を襲う暴漢の股間を潰したり、鍵をメリケンサックみたいにしたりして、私立探偵をボコボコにしたり、とにかく強いマキシーン。
それでも、跳ね返しきれない、巨大な力がマキシーンを襲います。
その正体は?
黒く幕は…お父さん?
マキシーンに付きまとう、謎の黒幕。
パールとハワード夫婦の関係者か?とか思いましたが、正体はマキシーンの父親。
この父親は1作目の『X エックス』で、テレビ伝道師としても登場していました。
父親は、マキシーンの周囲の女性を殺害し、それを「宗教映画」として完成させようとしていました。
作中で、ちょくちょく「スナッフフィルム(実際の殺人を撮影した映像)」っぽい、場面が出てくるのですが、ここれも含めて、80年代のカルト的な、すこし異質で危険な空気、それを反映させた展開で『X エックス』の複線にも繋がりますね。
『Pearl パール』では、田舎を抜けだして自由になりたいパールを、厳格なキリスト教徒の母親が縛り付けていました。
マキシーンにとって、宗教を信じる厳格な父親が足かせになっているのは、パールと同じですが、マキシーンはそれを見事に乗り越えます。
ラストの父親へのとどめを喰らわす場面も含めて、流石はマキシーン!そこに痺れる!憧れるー!
とにかく80年代を感じる作品
『MaXXXine マキシーン』は、とにかく80年代の空気を感じる作品です。
作中で恐怖の1つになっていた「ナイトストーカー」は、実はマキシーンと何も関係が無く、肩透かしを感じるかもしれません。
『MaXXXine マキシーン』は、80年代のブライアン•デ•パルマ監督作品への、オマージュが盛り込まれた作品ですが、この肩透かし感も、オマージュの1つのようです。
正直「X」シリーズの完結編として見ると、物足りない部分もあります。
考えてみれば『Pearl パール』の作風が、無駄に豪華だった為、更にギャップを感じるのかもしれません。
でも、80年代に数多く製作された、ホラー映画の人気シリーズの3作目を見た時「なんか物足りない」と感じる事も多かった為、それを含めて、この作風は正解だったと思います。
また、1作目の『X エックス』が「ポルノ黄金時代」と呼ばれた、70年代の空気を反映させていた事を考えると、『MaXXXine マキシーン』はホラー映画が熱かった80年代の、カルト的な雰囲気や、個人の怪しいレンタルビデオショップがあった街並み、胡散臭い探偵を熱演しているケビンベーコンなど、そういった空気を味わう作品であると思います。
そういう意味で言えば、映画館で観賞するのもいいですが、深夜の1時ぐらいにテレビをつけたら、何か放送してたみたいなノリで見るのが、一番楽しめるかもしれません。
何なら、レンタルビデオショップで借りて来て、ビデオデッキで再生したい作品です。
70年代と80年代を、逞しく生き抜いたマキシーンも、最終的にスターになり「輝かしい未来」を手に入れた事も含め、シリーズの完結編としては良かった感じもします。
「永遠の美しさ」は女性の永遠のテーマ!なんて生ぬるい作品じゃなかった映画『サブスタンス』(ネタバレあり)

元人気女優だったエリザベスが、再び若さを手に入れる為、怪しい薬物に使用した事で起きる、不可解な出来事を描いた異色のホラーエンタテインメント『サブスタンス』。
ニコール・キッドマンが、過去にインタビューで「ハリウッドには、女性は40歳を過ぎると俳優人生が終わるという共通認識がある」と発言しており、本作のテーマはおそらくですが、女性が年齢を重ねる事で経験する、残酷な男社会への皮肉だと思います。
だと思うんですが、クライマックスが、いい意味で「どうかしてる」作品で、これをデミ・ムーアが、演じ切っているのが本当に凄いとしか言えない作品でした。
『サブスタンス』の凄さを、ネタバレ全開でご紹介します。
『サブスタンス』あらすじ
かつては大人気だった女優のエリザベス。
ですが、容姿の衰えに伴い仕事が無くなり、今や過去の人となっていました。
唯一の仕事だった、朝の番組でのエアロビクスコーナーも、年齢を理由に解雇されます。傷心のエリザベスですが、ある事をキッカケに、再び若さを取り戻せるとされる、不思議な薬品を手に入れます。
半信半疑のまま、その薬品を使ってみたエリザベス。
すると、エリザベスの体から、若くて美しい分身「スー」が誕生します。
スーとなり、新たな人生を楽しみ始めたエリザベスですが、次第にスーが自我を持つようになり…。
「笑うセールスマン」みたいな世界観
『サブスタンス』は容姿の衰えにより、厳しい現実を突きつけられる、エリザベスの姿を通して、男社会への皮肉をたっぷり込めた作品です。
なので、本作に登場する男は、どこまでも欲望むき出しで醜く、軽蔑する存在として徹底的に描かれています。
2020年の『プロミシング・ヤング・ウーマン』もそうですけど、徹底的に男が馬鹿で欲深く、どうしようもない存在として描かれているので、不快感を抱く人もいるかもしれませんが、これらの映画の世界観に出て来る男は、これでいいんです。この最低ぶりも楽しむんです。
個人的に、エリザベスの向かいの部屋に住んでいた男が好きです。
で、そんなエリザベスが、あるキッカケで手に入れたのが、綺麗で若い女性の分身になれる、謎のキット。
このキットを使用すれば、スーという分身になる事ができ、男たちにチヤホヤされます。ただし「1週間おきに、元の体に戻って下さいね。例外はありませんよー。」という、喪黒福造の声が聞こえてきそうな条件があります。
実は、この条件がかなり厄介で…
美しさを維持するのって面倒くさい
エリザベスが謎のキットを使うと、若くて美しい分身が誕生するのですが、この分身が誕生する様子がグロい!
エリザベスの背中がパックリと裂けて、そこから分身であるスーが出てきます。
スーにエリザベスの意識が乗り移っているので、空っぽになったエリザベスの体を保持しないといけません。
まず、背中を縫って、1週間分の栄養剤を点滴し、分身のスーの美貌を維持する為に、本体のエリザベスの体液を、定期的に注入する。
面倒くさい!
これを手際よくやる、エリザベス。「あんた、そのキット使うの初めてじゃないでしょ?」と思うくらい手際がいいです。
これは、外での美しさを維持する為に、男性の見えないところで、女性が努力をしている様子を表現しているんだと思います。
とにかく、若くて美しい分身「スー」を手に入れたエリザベス。
輝かしい第二の人生が始まるはずが…
個人的に名場面「ブチ切れながらフランス料理を作るエリザベス」
スーは、エリザベスの代わりに朝のエアロビクスコーナーを引き継ぎ、大人気となります。
ただ、その頃からエリザベスとスーの人格乖離が始まり、スーがエリザベスを「過去の存在」と侮辱するようになります。
更に、老いた醜いエリザベスの姿に戻る事を拒否したスーは「1週間ごとに入れ替わる」というルールも無視するようになります。
それでも、体の状態を維持する為、スーからエリザベスに戻るのですが、スーは完全にエリザベスを軽蔑し、侮辱するようになります。
ある時、トーク番組に出演したスーが、自分を馬鹿にする発言をしているのを見たエリザベスは、怒り狂います。
「いや、どっちもあんたでしょ?」という、ツッコミが起きそうですし、実際に謎のキットのコールセンター(?)の人にもツッコまれるんですが、そんな事は置いといて、エリザベスの怒りはスーに向けられます。
そして、フランス料理を作りながら怒り狂うエリザベスという、やたらテンションの高い名場面が生まれています!
白髪頭でスーへの憎悪を向けながら、卵をかき混ぜる、デミ・ムーアの怪演を是非見てほしいです!
ただ、完全に別人格となり暴走を始めたスー。そしてスーへの憎しみを募らせるエリザベス。ここから2人(?)はどうなるのでしょうか?
以下、ネタバレを含みます
ここからネタバレ
エリザベス+スー=モンスター?
スーの暴走を止める為、謎のキットを使った実験の中止を求めるエリザベス。
実験中止のキットを使うと、何故かスーとエリザベスが分離します。
そして、スーはエリザベスを殴り殺し、自身が司会に抜擢された、大晦日の特番に向かいます。
ですが、体の状態を維持する事ができず、スーは「使うのは1回だけ」と警告されている、注射を打ちます。
そして誕生したのは、エリザベスとスーが合体したような、簡単に言うとモンスターです。
モンスターになったエリザベスでありスーは、綺麗なドレスを着て大晦日の特番に行きますが「化け物!」と罵られ、ステージを血まみれにして、逃げた先で息絶えます。
ただただ美しさと若さを追い求めただけなのに、酷いラスト!
ルールを守らないからだ!
男社会でしか生きる事が出来なかった、エリザベスの悲劇
『サブスタンス』は、老いに抗えないエリザベスの悲劇と、男性社会の残酷さを、徹底的に描いたホラーエンタテインメントです。
ただ思うのが、エリザベスの幸せは、いつまでも男性に憧れられる存在である事で、男社会にいいように使われたように見えますが、結局エリザベスが輝けたのも、その男社会の中だからという皮肉。
作中で、50歳を迎えたエリザベスに「妻がファンでね」と伝える医者がいたり、エリザベスをいつまでも「憧れ」の存在として見ていた、元クラスメートなど、現在のエリザベスに好意的な声を寄せる存在も、作中に登場します。
エリザベスが、もっと早くそういう声に耳を傾け、輝かしい女優人生の終わりを決断すれば、もっと違った人生があったかもしれません。
ですが、前述したニコール・キッドマンの「ハリウッドには、女性は40歳を過ぎると俳優人生が終わるという共通認識がある」を考えると、必ずしもそれが正解で幸せだったとは言い切れません。
間違いなくモンスターになる事は無かったかと思いますが…。
そう考えると、本作は想像を絶する展開に唖然としますが、観賞後に、いろいろと考えさせられる作品でもありました。
気になる方は、とりあえず、ブチ切れながら卵をかき混ぜる、デミ・ムーアだけでも見に行って下さい。
今後注目したい監督、コラリー・ファルジャ
『サブスタンス』で監督を務めたコラリー・ファルジャは、長編デビュー作の『REVENGE リベンジ』という映画も、なかなか独特の作品です。

最低の男達に弄ばれ、酷い目にあわされる女性が主人公という点も『サブスタンス』と共通します。
『REVENGE リベンジ』の一番のポイントは、復讐する女性主人公と、復讐される男達がどっちも素人で、グダグダの戦いが続き、それが独特の世界観を作り出しています。
『サブスタンス』を見て、驚いた人も多いかもしれませんが、先に『REVENGE リベンジ』を見ておくと「まぁ、こういう作品を作るだろうな」と変に納得してしまいます。
『REVENGE リベンジ』は「U-NEXT」で配信されているので、気になった方は是非ご覧ください。
『サブスタンス』は「第97回アカデミー賞」で、作品賞など5部門にノミネートされ、デミ・ムーアを完全復活させた作品として注目されています。
その監督を務めたコラリー・ファルジャ、おそらく注目されているので、次回作も非常に楽しみです!
意味不明で暴力的な”赤いニコラス・ケイジ”がとにかく怖い「シンパシー・フォー・ザ・デビル」(ネタバレあり)

もはや他の俳優の追随を許さない領域に来ている、唯一無二の俳優ニコラス・ケイジ。
そんなニコラス・ケイジが、暴力的な謎の男を演じ、恐怖のドライブが繰り広げられるアクションスリラー「シンパシー・フォー・ザ・デビル」。
予告編では、異常なテンションのニコラス・ケイジが、とにかく印象的でしたが、果たしたどのような内容なのでしょうか?
『シンパシー・フォー・ザ・デビル』あらすじ
妻の出産に立ち会う為、病院へと向かう会社員のデイビッド。
病院に到着し、車を降りようとした瞬間、謎の男が後部座席に座って来て、車を出すように命じます。
デイビッドは、抵抗を試みましたが、男は拳銃を持っている為それも難しく、仕方なく車を走らせます。
男の正体も目的も不明なまま、悪夢のようなドライブが始まりました。
しかし、男の凶器は徐々にエスカレートしていき…。
謎のカードマジックから始まる悪夢のようなドライブ!
暴力的な謎の男との、悪夢のような一夜を描く「シンパシー・フォー・ザ・デビル」。
妻が出産中の病院へ辿り着いたデイビッドが、いきなり後部座席に座ってきた、謎の男と遭遇する所から、物語は始まります。
謎の男を演じるニコラス・ケイジのテンションが、最初から異様で、いきなり謎のトランプマジックを披露します
「お前がスペードのエースを選ぶのを分かっていた」みたいな事を言いますが「だから何だよ!車から降りろよ!」という、デイビッドの叫びが聞こえてくるようです。
ただ、男は拳銃を向けている為、デイビッドは従うしかなく、男の指示に従い車を走らせる事になります。
最悪な状況に加速させていく、暴走する男の狂気
男の指示に従い、車を走らせるデイビッド。
男は「母親の病院まで行きたい」と言いますが、何故、わざわざデイビッドの車を選んだのか?など、ただただ謎は深まるばかり。
デイビッドは山ほど聞きたい事がありますが、男が「俺の話を遮るな!」と逆上する為、何も聞けません。
ちなみに「俺の話を遮るな!」は、ニコラス・ケイジのテンションも重なって、本作屈指の名台詞になっています。
意味不明の男のせいで、妻の出産に立ち会えず。災難としか言えない状況となったデイビッド。
更に、車を停車させた警察官を男が撃ち殺し、事態は最悪な方向に加速していきます。
男の目的は?デイビッドの運命は?もっと言うと、この男は本当に誰なんでしょうか?
以下、ネタバレとなります、まだ先を知りたくない方は、ご注意ください。
ネタバレ
遂に明らかになる男の素性!だけど勘違い!?
警察を撃ち殺し、異常さが加速した男が「腹が減った」とか言い出した為、デイビッドはハイウェイ沿いのダイナーへ車を停めます。
このダイナーで、ツナサンドに使うチーズの種類がどうのこうのと揉めた結果、地獄のような光景が広がります。
そして、男は遂に自分の目的を話し始めます。
男が探していたのは、自分の家族を破滅に追いやった、裏組織の人間パトリックでした。
そして、パトリックこそ、目の前のデイビッドだと言うのです。
ここに来て、更に支離滅裂!
男は逃げようとしたデイビッドを追いかけ、ダイナーの駐車場を炎だらけにした結果、観念したデイビッドを捕まえ、更にドライブを続けます。
やっぱり勘違いじゃなかった!
ダイナーを炎だらけにするもんだから、警察が追いかけてきます。
デイビッドが急ブレーキでハンドルを切った為、車は横転します。
横転した車を包囲する警察官ですが、1人づつ撃ち殺されていきます。
撃ち殺したのは謎の男…じゃなくてデイビッド!
デイビッドは今は身分を隠していますが、実は本当に裏社会の人間でした!
ごめんね謎の男、お前の言ってた事が真実だった!
という訳で、恐怖を抱く対象となる人間が、最後は入れ替わるという、なかなか面白い構成でした。
ただ、本作の一番の見どころは、やはりニコラス・ケイジ。
90分のワンマンショーのような内容で、控えめに言って最高だったので、ニコラス・ケイジを楽しみたい方には、文句なしにおススメです!
ただ、最初のカードマジック。マジであれは何だったの?
行方不明の弟を探しています「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」(ネタバレあり)

かくれんぼの最中に、行方不明になった弟を探し続ける兒玉敬太と、敬太の同居人で「見えない存在」を感じる力を持つ天野司。
2人が「人が消える山」の恐怖に直面する、ホラー映画「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」。
監督は2024年に放送されて話題になった「イシナガキクエを探しています」で、演出を務めた近藤亮太。
「第2回日本ホラー映画大賞」で、大賞を受賞した、短編作品をベースにした本作。
日本的な恐怖を感じる、良質のホラー作品ですが、個人的に思う所もありました。
今回は「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」をご紹介します。
『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』あらすじ
子供の頃に、弟が行方不明になった経験を持つ兒玉敬太。
かくれんぼの最中に、弟が行方不明になった過去があり、敬太は心にトラウマを抱え、行方不明の人を探すボランティア活動に力を入れていました。
ある時、敬太のもとに母親から荷物が送られ、その中に1本のビデオテープが入っていました。
敬太は同居人で、強い霊感を持つ天野司と、ビデオを見る事にします。
ビデオには、敬太が子供時代に撮影した映像が収めされており、弟が行方不明になる瞬間が記録されていました。
弟が行方不明になったのは、山の中の廃墟。
しかし、その後にいくら捜索しても、その廃墟自体見つからず、捜索は打ち切られていました。
自身の過去に向き合う為、敬太は司と山にあるはずの廃墟を探し始めます。
そこへ、ボランティア活動に力を入れる敬太に興味を持った新聞記者、久住美琴も加わります。
果たして、弟が失踪した真相を、突き止める事は出来るのでしょうか?
感覚にじわじわとくる静かなホラー映画
消息不明の弟の真相を追求する、兒玉敬太と天野司が、ある山の恐怖に直面する「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」。
本作は「CGや音に頼らない恐怖を目指した」と言う事ですが、その言葉通り、分かりやすい幽霊(貞子や伽椰子的な奴)や、いきなり大きな音が起きて驚かせるなど、そういった恐怖は一切なく、じわじわとくる「静かな恐怖」が印象的な作品です。
「静かな恐怖」を象徴するのが、序盤に出てくるビデオテープの存在。
ビデオテープと言えば「リング」シリーズの「呪いのビデオ」という、キラーアイテムがありますが、「呪いのビデオ」が明らかに気味の悪い映像だったのに対し、「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」に出てくるビデオテープは、幼い頃の敬太が撮影した、日常的な映像となっています。
ただ、もちろんビデオの最後の方には、不気味な現象が起きており、弟が失踪する瞬間が記録されています。
「本当にあった呪いのビデオ」的な感じではありますが、その映像も、分かりやすく幽霊(貞子や伽椰子的な奴)が映っている訳ではなく、なんか本当に日常的に突然起きそうな、リアリティのある映像となっています。
このビデオがキッカケで、敬太は司と共に、再び真相を探る事になります。
タイトルにもなっているビデオテープの存在は、物語を進めるだけでなく「静かな恐怖」が特徴の、本作を象徴するアイテムになっています。
神様を捨ててた山?
「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」の恐怖を演出する、前半の重要アイテムがビデオテープなのですが、後半は弟が失踪した「人が消える山」の謎がメインとなります。
この山は弟だけでなく、大学生サークルや、いろいろは人が消息不明になる山です。
明らかにいわくつきですが、心霊スポットにもなっていないという不思議な場所。
この山に関しては、中盤で敬太が宿泊する、旅館の男性が詳しく語っており「かつては神様を捨てていた山」「ここに捨てると、忘れたり無くしたりできる」という事です。
このセリフだけだと、敬太が弟を忘れる為に捨てたとも解釈できますが、真相は一体…。
以下、ネタバレとなります、まだ先を知りたくない方は、ご注意ください。
ネタバレ
消えたのは弟だけじゃなかった!
敬太は、ついに山の廃墟に向かい、弟を探し始めます。
一方、司は敬太の母親を訪ねるのですが、何か月も前に亡くなっており、家に遺体が放置されたままである事が判明します。
じゃあ、ビデオテープ送ってきたの誰だよ!となるのですが、司も途中で合流した久住美琴と、廃墟に向かいます。
そこで司が見たのは、敬太の家族の姿。
その瞬間、司はビデオテープの時間軸の中に入り込み、そのまま行方不明になってしまいます。
「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」は、明確な答えが分かる作品ではないので、そこでですねぇ…。
間違ってるの承知で考察してみる!
・弟が消えた真相
作中で敬太は「家族は、それぞれの役割を演じている気がした」と語ってます。
ビデオテープを撮影していた頃の敬太は、明らかに弟の存在を疎ましく感じているようでした。
それでも、兄としての役割を演じていたんじゃないでしょうか?
もし、当時の敬太が「弟を無くしたい」と思っていたら…?
・司が見た敬太の家族の意味
廃墟の中で司が見た、敬太の家族の亡霊または残留思念みたいな姿。
敬太は「両親は自分が弟を殺したと思っている」と語っており、辛い想いを抱えていた事が分かります。
そして、敬太は家族に対する自身の辛い記憶を、山の廃墟で消したのでしょう。
敬太の母親を発見した司は「何か月も前に亡くなっている」と言っているので、敬太は、もはや母親すら見えない存在になってしまっているのです。
・何故、司は行方不明になったのか?
ここが、解釈が難しいのですが、おそらく司が存在する限り、敬太は自分の家族と向き合わなければならなくなります。
家族の事を忘れたい敬太からすると、司は邪魔な存在。
家族と共に、司の事も忘れたい敬太の、何かしらの力が働いたのかもしれません。
・「かくれんぼをしていた方が幸せ」の意味
敬太と司が、「人が消える山」に到着した際、1人の老人と出会います。(「地面士たち」で、スーパーの場所聞かれて答えられなくなった人が演じてます。)
老人は敬太の弟の事も知っており「かくれんぼしていると思った方が楽だと思わんかね?」と聞いてきます。
「かくれんぼ」は、敬太の弟が消えたキッカケになった遊びですが、隠れている人を探す鬼がいないと「かくれんぼ」は成立しません。
敬太が弟を、探す事を辞めてしまった瞬間「かくれんぼ」は終わってしまうのです。
それを終わらせない為に、敬太はボランティア活動で、人を探し続けているのかもしれません。そして、消えた弟も、今もかくれんぼを続けているとしたら…
・何も考えない方がいいです…
「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」は、いろいろ考察しがいのある作品ですが、ただ個人的にですが、観賞した人の、解釈にゆだねすぎの感じもしまして、一応分かりやすいオチを付けた方がいい気はしました。(気付いてなかったらすいません。)
いろいろ考えたくなる作品ですが、何も考えなくても、じわじわと来る怖い作品ではあります。
作中で「考えるの止めた、何も考えない方がいい」みたいなセリフがありますが、全てが辻褄が合う訳も無く、ただただ何も考えず、理不尽な恐怖を感じる作品として、楽しむのもいいと思いました。
2大スターの競演がアーチチ!アーチ!『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件』(ネタバレあり)

1980年代の香港を舞台に、巨額の金融詐欺を仕掛けたチン・ヤッインと、チンを追う警察官ラウ・カイユンの執念を描いた『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件』。
トニー・レオンとアンディ・ラウ、2大スターが20年ぶりに共演した事でも話題になった、本作はどんな内容なのか?
『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件』あらすじ
1980年代の香港は、イギリスによる植民地支配の終焉が近づき、激動の時代になっていた。
商売に失敗し、一文無しとなったチン・ヤッインは、悪質な取引に手を貸した事をキッカケに、資産100億ドルの「嘉文世紀」グループを立ち上げるまでに成りあがる。
一方、汚職対策独立委員会(ICAC)のエリート捜査官ラウ・カイユンは、「100億ドル詐欺」の実行犯であるチンの身柄を拘束する。
チンの周辺人物の身柄も拘束するが、なかなか詐欺の実態を掴む事が出来ない。
更にチンは、自身の背後に、黒幕がいる事をほのめかすようになる。
決定打が掴めないラウだが、ラウの家族にも危険が及ぶようになり…。
実際に起きた香港史上最大級の企業犯罪がモデル
「100億ドル詐欺」を巡り、エリート捜査官と実行犯とされる男の攻防戦を描いた『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件』。
実際に起きた香港史上最大級の企業犯罪と呼ばれる「佳寧案(キャリアン事件)」がモデルとなっているようです。
作中では、80年代の株式市場ブームという、当時の時代背景が重要になっており、その辺りの事を少しでも予習していると、無一文だったはずのチン・ヤッインが、何故大金持ちになれたのか?がピンとくると思います。
ただ、その辺の時代背景が分からずとも「チンさんは何か不正をして、成功したんだ」ぐらいの認識でも、じゅうぶん物語についていけます。
『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件』の核の部分は、詐欺事件を追うラウと逃げ続けるチン、2人の男の攻防戦だからです。
黒幕は誰なのか?
詐欺事件の実行犯とされるチンは「嘉文世紀グループ」を立ち上げ(これも、ほとんど実態の無い会社)株価操作や闇取引などを次々に行い、資産100億ドルを手に入れます。
やっている事は違法で、チンが中心人物なのは間違いないのですが「果たして、チンが全て計画した事なのか?」という部分が、物語の核となっていきます。
本作のオープニングでは、チンは一文無しで、何とかチャンスを掴もうとしている「何も無い男」として描かれています。
その後、資産家のン・レンソンの懐に入り込み「証券界の帝王」と呼ばれる、株式仲介人のヤム・チュンを仲間に引き込み、勢力を拡大させるチンですが、やはり小悪党と言う印象です。
誰かに資金を提供され、計画を動かす駒にしか見えないチンですが、ラウはチンの裏にいるとされる、黒幕に辿り着けるのでしょうか?
以下、ネタバレとなります、まだ先を知りたくない方は、ご注意ください。
ネタバレ
お前はハリソン山中か?
誰かの計画通りに動いてるとしか見えないチンでしたが、なんと黒幕は存在せず、全てはチンが計画し実行した事でした。
銀行員の男と知り合った事で、チンは莫大な資産力を身に着け、悪魔のような人間に変貌していたのです。
チンは「100億ドル詐欺」の事件に関わった、かつての仲間を次々に殺していきます。
それはそれは「地面士たち」のハリソン山中みたいに、躊躇なく殺していきます。
更に弁護士まで買収し、起訴ができないチン。
無敵のように見えましたが、香港経済に不安が広がり、株価は大暴落。
チンもかつての力を失っていきます。
そして、何年も諦める事なく、チンを追い続けたラウの執念が実り、最後はチンを起訴する事に成功します。
裏の世界で成り上がったチンと、最後は執念を実らせる刑事のラウ。
犯罪サスペンスとして、めちゃくちゃ熱くなりそうだけど…。
最後があっさりすぎるかな…?
観賞した印象としては、もちろんトニー・レオンとアンディ・ラウの存在感は凄かったし、特に曲者のチンを演じた、トニー・レオンの怪演は見事で、最初にラウに逮捕される時、口笛を吹ながらお粥を作る場面は、チンの怪しい魅力が全開の名場面です。
ただ、15年に渡る因縁を2時間で見せるのは、流石に無理があったかという感じで、ラストはあっさりしすぎたかなと思います。
また、ラウかチンかの、どちらかの目線に固定した方が、物語に入りやすくて良かったかなとも思いました。
ただ、繰り返しになりますが、トニー・レオンとアンディ・ラウの競演を楽しむだけでも、かなりクオリティの高い作品になっています。
あなたの天秤はどちらに傾く?『陪審員2番』(ネタバレあり)

俳優として監督として、もはや説明不要な才能を発揮し続けている、クリント・イーストウッド。
イーストウッドが最新作で挑むのは、法廷を舞台に、人の善悪を問うミステリー。
日本だと、劇場公開されずに、いきなり配信限定になった事でも話題になった作品です。(最初から配信前提の作品だったとか、裏事情は知らん。)
今回は、イーストウッドの引退作とも噂される『陪審員2番』をご紹介します。
ネタバレを含んでいるので、お気を付けください。
『陪審員2番』あらすじ
妊娠中の妻と暮らしながら、幸せな毎日を送っているジャスティン・ケンプ。
ケンプは、ある事件の陪審員に選ばれる。
その事件は、恋人を殺害した容疑にかけられている、ジェームズ・サイスの裁判だった。
妊娠している妻の事が気になり、当初は乗り気ではなく、早く裁判を終わらせようとしたケンプだったが、裁判が進む中で、ある記憶が蘇る。
嵐の夜に、車で帰宅途中だったケンプは、何かにぶつかった感覚があった。
その時は「鹿にぶつかった」と思い、気にしなかったケンプだったが、自身が陪審員として参加している裁判が進む中で、実は被害者の女性は、あの時ケンプが車で轢いてしまった可能性があるのだ。
裁判はほぼ全員一致で「サイスが有罪」という方向で進んでいる。
ケンプは、このままサイスを有罪にして裁判を終わらせるのか?
それとも、自身が轢き逃げした可能性と向き合うのか?
「陪審員2番」である、ケンプの決断は?
めちゃくちゃ不安定な主人公ケンプ
法廷ミステリーである『陪審員2番』は、主人公のケンプが、ある殺人事件の裁判に、陪審員として選ばれるところから始まります。
事件は、ジェームズ・サイスという男が、恋人の女性に暴行を加え、殺害し橋の上から投げ捨てたとされる、残虐極まりない殺人事件です。
容疑者のサイスは、普段から暴力的な男で、周囲の評判は最悪。
皆が「あいつなら、やりかねない」という反応です。
サイスの犯行を裏付けるような、状況証拠も次々に出てきた為、ほぼサイスの犯行で決まり!という雰囲気になります。
ただ、ケンプだけは違います。
サイスが殺害したとされる女性は、実は自分が車で轢いてしまった…という可能性があるのです。
迷ったまま、審議に入ったケンプは、1人だけ「サイスは無罪かもしれない」と主張し、評決不能の状態となります。
心に迷いを抱いたまま、サイスの人生を決めてしまう決断ができない、ケンプの気持ちは分かりますが、評決不能の状態にしたところで、打つ手がある訳でもなく、ケンプはただただ周囲を煙に巻き続けます。
実はケンプは飲酒運転で事故を起こした過去があり、真実を話をすれば、今度は終身刑の可能性があるのです。
とは言え打開策がないから、結論を先延ばしにし続けるしかない。
めちゃくちゃ不安定な主人公とも言えるケンプ、周囲からしたら迷惑でしかない!
この手の法廷ミステリーは、主人公が容疑者になってしまい、自らの潔白を晴らす展開が多いのですが、罪悪感はあるけど、打開策が何も無いケンプは、この後にどう動くのでしょうか?
容疑者の人生がかかっているけども…
サイス事件の陪審員は、ケンプの他に11人いるんですが、当初はケンプ以外は、全員が「サイスは有罪」と言う意見でした。
前述したように、サイスは評判が最悪の男と言う事もあるのですが、陪審員全員が「面倒くさいから、早く終わらせたい」という態度です。
これは、陪審員だけでなく、担当検事のフェイス・キルブルーもそういう態度で、言ってしまえば「やっつけ仕事」。
サイスは無罪を主張しており、サイスの公選弁護人も、サイスの無罪を確信していますが、裁判に関わるそれ以外の人達は、とにかく面倒くさいのです。
人の人生がかかっているのですが、陪審員やキルブルーからすると、さっさと終わらせたいだけの案件。
現在の司法制度の問題点を、かなり皮肉的に描いています。
ケンプの意見で、結果的に議論を重ねる事になるのですが、この裁判の行方は…?
以下、ネタバレとなります、まだ先を知りたくない方は、ご注意ください。
ネタバレ
善良な市民で無くなったケンプ
ケンプを含む陪審員全員の意見が一致し、サイスは結果的に有罪となります。
悩みに悩んだケンプですが、自分が答えを出さずに評決不能となったとしても、また別の陪審員で再審議される。
結局、サイスの判決が先延ばしになるだけなので、ケンプも答えを出したのでしょう。
ただ、この瞬間、ケンプは自身が犯した可能性のある罪と向き合う事を辞めた、善良な一市民ではなくなったのです。
娘も生まれ、家族を守る為の決断でしょう。
サイスの判決が出た後の、ケンプとキルブルー検事の会話で、ケンプの心情が分かります。
ですが、一連の裁判で、キルブルー検事は「正義」を意識するようになり、サイスが無罪である可能性を感じ始めていました。
本作のラストは、突然ケンプの家を訪ねてきたキルブルー検事が、ただただ無言でケンプを睨みつけて終わります。
この事件が終了したとしても、正義の目からは逃げられないという事でしょう。
あなたならどうする?
『陪審員2番』を観賞後に思うのは「自分がケンプの立場ならどうする?」という事です。
産まれたばかりの娘と妻の為、終身刑になる事は避けたいでしょう。
もし自分なら、同じようにサイスに罪を被せて、逃げようとするかもしれません。
だからこそ、ラストでケンプを睨む、キルブルー検事の目が怖かったですし、イーストウッド監督に「お前もケンプと一緒じゃないか!」と言われているようで、ジョージ秋山の「銭ゲバ」読んだ後みたいな気持ちになりました。
ユーネクスト限定配信なんですが、多くの人に見てほしい作品です。
あなたがケンプなら、どうしますか?